インフルエンスマップとは、取引先の組織の中で、誰が何を決め、誰が誰の判断に影響しているかを一枚に描いた図です。
長く取引のある会社でも、「先方で実際に決めているのは誰か」と聞かれて、すぐに答えられないことがあります。いつも話しているのは購買や現場の窓口の方で、予算を握る部長や、仕様を決める技術の責任者には会ったことがない。そんな状態は珍しくありません。
このコラムでは、取引先の「決める人」を見つけ、会社として関係をつくるための道具として、インフルエンスマップの作り方を5つの手順で解説します。
なぜ決める人を見つける必要があるのか
失注の理由が、本当の理由とは限らない
失注の理由として最も多く挙がるのは価格です。ただ、価格を下げても受注が増えないことはよくあります。価格は、お客様が断るときの言いやすい理由として使われることが多いからです。
実際には、提案の前の段階で勝負がついていることが少なくありません。決める人が何を重視しているかを知らないまま提案し、他社と横並びで比べられ、最後に価格で断られる。これを避けるには、コンペになる前から、決める人と会社として関わっておくことが大切です。インフルエンスマップは、そのための地図です。
窓口の方が異動すると、関係が途切れる
窓口の方とだけつながっている関係は、その方の異動や退職で途切れます。決める人や、その周りで判断に影響する人とも接点を持っておけば、窓口が替わっても取引は続きます。
インフルエンスマップの作り方
1社につき1枚、次の5つの手順で描きます。最初は手書きやホワイトボードでも構いません。
手順1:対象の取引先と、テーマを決める
売上の大きい取引先、これから取引を広げたい取引先から1社を選びます。あわせて、「来期の設備更新の案件」「別の事業部への取引拡大」のように、何について決める人を探すのかというテーマを一つ決めます。テーマが変われば、決める人も変わるからです。
手順2:組織の骨組みを書く
取引先の部門と役職を、組織図の形で書きます。名刺、取引先のWebサイトや会社案内、決算資料、商談で聞いた話など、手元にある情報で描ける範囲で十分です。わからない部分は空けておきます。
手順3:人物ごとに、テーマでの役割を書き込む
わかっている人物を組織図に置き、そのテーマで果たす役割を書き込みます。役割は、次の5つに分けると整理しやすくなります。
| 役割 | どんな人か | 確かめること |
|---|---|---|
| 決める人 | 予算を承認し、最終的に採用を決める | 何を判断の基準にしているか |
| 評価する人 | 仕様や品質、価格を比べて評価する(技術・購買など) | どの点を比べているか |
| 使う人 | 導入後に実際に使う、現場の担当者 | 今の困りごと、変えたいこと |
| 推進する人 | 自社の提案を社内で後押ししてくれる | 社内で説明するときに必要な材料 |
| 慎重な人 | 今のやり方や他社を支持し、変化に慎重 | 何を心配しているか |
手順4:影響の向きと、自社への態度を描く
誰の意見を誰が聞いているかを、矢印で結びます。正式な上下関係とは別に、「部長は、現場のベテランの意見を重く見ている」といった実際の影響の向きを描くのがポイントです。あわせて、それぞれの人の自社への態度を、味方・中立・慎重の3段階で書き添えます。
手順5:自社の誰とつながっているかを重ね、次の行動を決める
最後に、取引先の各人物と、自社の誰がつながっているかを重ねます。すると、社長しか会っていない相手、誰も会ったことのない決める人、慎重な人への手当てが抜けている箇所が見えてきます。
見えた空白から、「誰に、自社の誰が、いつまでに会うか」を決めます。たとえば、社長の訪問に営業担当が同行して技術の責任者を紹介してもらう、使う人の困りごとを聞く場を設ける、といった行動です。ここまで書いて、インフルエンスマップは完成です。
よくあるつまずき
- 窓口の方の話だけで描く:窓口から見た組織は、実際の決め方と違うことがあります。複数の人から話を聞き、食い違いがあれば確かめます。
- 一度描いて終わりにする:人事異動や組織変更で、地図はすぐに古くなります。営業会議などで、少なくとも四半期に一度は見直します。
- 個人の評判を書きすぎる:書くのは役割と業務上の事実に限ります。社内で共有するものなので、本人が見ても困らない書き方を心がけます。
- 営業担当一人のメモにとどめる:地図は会社で共有して初めて、関係を会社の資産に変えられます。社長、営業、技術の担当が同じ地図を見て話せる状態をつくります。
描いたあとの使い方
インフルエンスマップは、取引先ごとの攻略方針であるアカウントプランの中心になります。取引先を取り巻く変化と自社の強みから提案のテーマを決め、マップで会うべき人を決め、行動計画に落とし込みます。
アカウントプランのひな形は、ツールのページから無料でダウンロードできます。人物と関係をスプレッドシートで管理しながら描ける、インフルエンスマップ作成アプリもご用意しています。
よくある質問
- 小さな取引先でも、インフルエンスマップは必要ですか?
- すべての取引先に作る必要はありません。売上の大きい取引先や、これから取引を広げたい取引先、担当者の交代が近い取引先から、数社に絞って作ると効果が出やすくなります。
- 取引先の組織図が手に入りません。どうすればよいですか?
- 最初から正確な組織図は要りません。名刺、取引先のWebサイトや会社案内、商談で聞いた話から、わかる範囲で描き始めてください。空白の箇所は、次の訪問で確かめることの一覧になります。
- 人物の情報を書き込むのは、問題になりませんか?
- 書くのは、役職や担当業務、案件での役割、自社とのやりとりの事実に限ってください。個人的な評判や私生活に関わることは書きません。社内で共有する範囲と、保管する場所も決めておきます。
この記事を書いた人
奥村 司 Hubright 代表/中小企業診断士・事業承継士
IT企業で大手企業向けの営業に携わり、取引先ごとの攻略方針とチームでの提案によって取引を拡大してきました。その手法をもとに、中小企業の主要取引先との関係づくりと、営業の仕組みづくりを支援しています。
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