取引先への依存とは
取引先への依存とは、売上の多くを限られた取引先に頼り、その取引が続くことを前提に経営が成り立っている状態のことです。
「一社に頼りすぎるのは危ない」とよく言われます。しかし、売上が特定の取引先に偏っていること自体は、悪いことではありません。大きな取引先から継続して仕事を任されているのは、品質や対応力が認められてきた結果だからです。
本当に危ないのは、偏りそのものよりも、その取引先との関係がどうなっているのかを、社内の誰も説明できない状態です。誰が発注を決めているのか、自社はどの部署の誰とつながっているのか、その関係は社長や一人の担当者の頭の中にしかないのではないか。ここが見えていないと、偏りは一気にリスクに変わります。
このコラムでは、依存がリスクに変わる場面、自社の状態を確かめる2つのポイント、状態に応じた対策を順に整理します。
依存がリスクに変わる場面
取引が順調なうちは、依存の問題はほとんど表に出てきません。表に出るのは、関係を支えていた前提が変わったときです。よくあるのは次の3つの場面です。
取引先の担当者が異動したとき
長年やり取りしてきた窓口の方や、自社を評価してくれていた部長が異動すると、後任の方は自社のことをよく知りません。前任者との間で積み上げてきた信頼は、そのままでは引き継がれないのが普通です。後任の方が別の取引先と付き合いがあれば、発注先の見直しが始まることもあります。
取引先の方針が変わったとき
調達先の集約、コストの見直し、内製化、海外への生産移管など、取引先の経営方針が変わると、個々の担当者の評価とは関係なく取引の条件が変わります。こうした方針は、現場の窓口よりも先に、経営層や企画の部署で決まっていきます。窓口としか接点がないと、変化に気づくのが最後になってしまいます。
自社の社長や担当者が交代するとき
事業承継で社長が交代するとき、あるいは長く取引先を担当してきた営業担当が退職するときです。取引先との関係が個人に結びついていると、交代と同時に関係も途切れかねません。後継者の方が「取引先の誰と話せばよいのか分からない」という状態で引き継ぎを迎えるのは、珍しいことではありません。
どの場面にも共通しているのは、関係が特定の人に結びついていて、会社として把握できていないという点です。
自社の状態を確かめる2つのポイント
依存が危ないかどうかは、売上の数字だけでは判断できません。次の2つを分けて見ると、自社がどの状態にあるかがはっきりします。
ポイント1:売上の偏り
ひとつ目は、売上がどれだけ一部の取引先に集まっているかです。直近の決算や試算表から、次の2つを確かめてください。
- 最も大きい取引先が、売上全体のどのくらいを占めているか
- 上位3社を合わせると、売上全体のどのくらいを占めているか
何割を超えたら危ない、という決まった線はありません。業種や取引の形によって、適切な水準は変わります。大切なのは、その取引先との取引がなくなった場合や大きく減った場合に、会社がどうなるかを経営者自身が把握していることです。
ポイント2:関係の属人化
ふたつ目は、取引先との関係が、社長や特定の担当者だけに頼っていないかです。次の問いに、社内で答えられるかを確かめてみてください。
- 取引先で発注や仕様を決めているのは誰か、名前と役割を挙げられるか
- 社長以外にも、取引先の複数の部署と接点を持っている社員がいるか
- 商談や要望、トラブルの経緯が、担当者の記憶ではなく記録として残っているか
- 担当者が急に不在になっても、翌週から同じように対応できるか
この2つは、別々に見ることが大切です。売上の偏りが大きくても、関係が会社として把握できていれば、すぐに困ることはありません。反対に、偏りが小さくても関係が属人化していれば、担当者の退職ひとつで取引が揺らぎます。
社内で確かめるときは、次の表をお使いください。
| 観点 | 確かめること | 確認 |
|---|---|---|
| 売上の偏り | 最も大きい取引先が、売上全体のどのくらいを占めているかを把握している | |
| 売上の偏り | 上位3社の合計が、売上全体のどのくらいを占めているかを把握している | |
| 売上の偏り | 最も大きい取引先との取引が大きく減った場合の影響を説明できる | |
| 関係の属人化 | 取引先で発注や仕様を決めている人を、名前と役割で挙げられる | |
| 関係の属人化 | 社長以外にも、取引先の複数の部署と接点を持つ社員がいる | |
| 関係の属人化 | 商談や要望、トラブルの経緯が記録として残っている | |
| 関係の属人化 | 担当者が急に不在になっても、翌週から同じように対応できる |
状態に応じた対策
2つのポイントを組み合わせると、自社の状態は4つに分けられます。状態によって、まず手を打つところが変わります。
偏りが大きく、関係も属人化している:関係の見える化を急ぐ段階
最も優先して手を打つべき状態です。まず、主要取引先の組織と、誰が何を決めているか、自社の誰とつながっているかを一枚の図に書き出します。社内で共有すると、関係が手薄な部署や、社長しか会っていない相手が見えてきます。そのうえで、社長以外の社員が取引先の別の部署と会う機会を、計画的に増やしていきます。
偏りが大きく、関係は会社として把握できている:取引を広げる段階
関係は会社の資産になっています。次は、その取引先の中で取引の幅を広げることを考えます。まだ取引のない部署や事業、取引先が抱えている課題を整理し、自社が役に立てるところを探します。新しい取引先を探すよりも、すでに信頼のある相手の中で広げるほうが、多くの場合は近道です。
偏りは小さいが、関係が属人化している:記録の仕組みをつくる段階
売上は分散していても、それぞれの取引先との関係が担当者の頭の中にしかない状態です。商談の内容、取引先の要望、キーパーソンの情報を記録する決まりをつくり、担当者が替わっても引き継げるようにします。道具は大がかりなものである必要はなく、続けられる形で始めることが大切です。
偏りが小さく、関係も把握できている:強みを伸ばす段階
大きな心配はない状態です。いまの取引先との関係を維持しながら、特に伸ばしたい取引先を選んで、重点的に関係を深めていきます。定期的に状態を見直し、偏りや属人化が進んでいないかを確かめる習慣をつけておくと安心です。
よくある質問
- 取引先を増やして、依存を減らすべきですか?
- 新しい取引先を増やすことは、ひとつの方法です。ただし、新規の開拓には時間も費用もかかり、すぐに売上の柱になるとは限りません。多くの場合は、まず今の主要取引先との関係を会社として把握し、そのうえで取引を広げるか、分散を進めるかを判断するほうが現実的です。
- 社長が取引先と深い関係を持っているのは、悪いことですか?
- 悪いことではありません。社長同士の信頼関係は、大きな強みです。問題になるのは、その関係が社長一人にしかなく、社内に引き継がれていない場合です。社長の関係を活かしながら、社員が取引先の別の部署とも接点を持てるようにしていくことが大切です。
- 事業承継の前に、取り組んでおくべきことはありますか?
- 主要取引先の誰と、どのような関係があるのかを書き出し、後継者と共有しておくことをおすすめします。あわせて、後継者が取引先の主要な方と会う機会を、交代の前から少しずつ設けておくと、引き継ぎがなめらかになります。
この記事を書いた人
奥村 司 Hubright 代表/中小企業診断士・事業承継士
IT企業で大手企業向けの営業に携わり、取引先ごとの攻略方針とチームでの提案によって取引を拡大してきました。その手法をもとに、中小企業の主要取引先との関係づくりと、営業の仕組みづくりを支援しています。
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